先輩移住者インタビュー
interview
「旅の終着駅」が、
新しい夢の始発駅になる。
人吉市
2025年島根県から移住 山代椋平さん

日本一周のバイク旅。その道中で出会った人吉の「人」に惚れ込み、2025年2月に人吉を移住先として選んだ山代椋平さん。元パティシエという繊細な手仕事を武器に、現在はエアコンクリーニング業を営みながら、この町で新たな種をまこうとしています。
「移住するなら、この土地の人とうまくやっていけるかどうか。それが一番でした」
そう語る山代さんの言葉からは、単なる憧れではない、山代さん自身の視点から見た人吉の魅力が伝わってきます。対面でのインタビューを通して見えてきた、一人の旅人が「住人」へと変わっていくグラデーション。その熱量をお届けします。

不完全燃焼バイク旅、再び人吉へ
山代さんの物語は、2019年に始まった日本一周の旅から動き出します。しかし、2020年のコロナ禍がその歩みを止めました。沖縄の寮で2週間誰とも話さない日々を過ごし、ようやく島根に帰郷。しかし、心の中には「不完全燃焼」の文字が残っていました。
2023年4月、山代さんは再びバイクに跨ります。再出発したその旅には、前回にはなかった明確な目的がありました。それは「自分に合う移住先を見つけること」。
山代さん「旅の目的が移住先を探す旅だったんで、そういう目線で街を見ながら旅していました。アニメの聖地(夏目友人帳)だったっていうのはもちろんあるんですけど、最終的に決めたのは『人』ですね」
初めて人吉を訪れたのは、2023年4月。長崎からスタートしてわずか1週間目のことでした。その「最初の1週間」の記憶が、その後の1年間の旅の間中、ずっと山代さんの心から離れなかったといいます。

「おせっかい」という名の、温かいおもてなし
日本全国、数多の魅力的な街を巡りながらも、なぜ人吉だったのか。山代さんは、人吉特有の「距離感」に答えを見出しました。
山代さん「いい意味でおせっかい焼きというか、おしゃべり好き。どこの店に行ってもコーヒーやお茶を出してくれて、『喋っていきなよ』って。気づけば2時間経っている、みたいな。そんな交流が、当たり前のようにそこにあったんです」
MOZOCAステーションで出会った常連さん、スイーツ店の店長、酒蔵の名物おばあちゃん……。一人の旅人として自然に受け入れられたと感じた山代さん。町の人たちとの交流が、人吉への印象をより強くしたようです。
協力隊「受け入れるというか、ウェルカムな雰囲気って嬉しいですよね。外から来たら」
山代さん「すごく気持ちいい人たちだなと思って。旅の途中でいいなと思う場所は他にもあったんですけど、結局『でもちょっと人吉と比べてみるか』って戻ってきちゃう。そんな濃い1週間でした」

繋がる縁、動き出す「人吉ライフ」
移住を決めてからの行動は迅速でした。移住者向けサイト「人吉ライフ」で見つけた珈琲ショップに応募。しかし、生活の基盤をより強固にするため、山代さんはもう一つの武器を手に入れます。それが、エアコンクリーニングの技術でした。
山代さん「元々人吉で起業をしようと思っていたので、その第一歩として。ぶっちゃけ何でもよかったんですけど、エアコンクリーニングの仕事を見つけて研修を受けて。でも、仕事はあっても住むところがなかなか見つからなくて……」
そんな窮地を救ったのも、やはり「人」の縁でした。移住の1ヶ月前、人吉を訪れていた山城さんに地域で活動する知人から連絡があり、不動産業者を紹介してもらい、ようやく「住まい」という最後のピースが埋まりました。
現在、山代さんはエアコンクリーニング業をメインに活動中。紹介や口コミで依頼がつながることもあるそうです。
山代さん「子育て世代のお客様が多いですね。自分と同世代の30〜40代の方々。あとはサロン経営者の方からの紹介とか。知らない人が家に入るのは不安だと思うので、SNSで顔出しをしたり、安心してもらえる工夫をしていきたいなと思っています」

旅人の視点で描く、二つの大きな夢
山代さんの視線は、さらにその先を見据えています。彼がこの町で実現したい夢は、二つ。
一つは、「コミュニティ型のゲストハウス」。
旅館でも簡易宿泊所でもない、旅人同士がリビングで語り合い、一緒に料理を作るような場所。特に、自分も愛するバイク乗りたちが、安心して立ち寄り、交流できる拠点を作りたいと考えています。
もう一つは、「シェア型書店」。
「本屋の店主になれる」というコンセプトで、月額制で棚を貸し出す仕組み。人吉には少ない個人経営の古本屋の灯を、鍛冶屋町のような歴史ある場所で灯したい。
山城さん「人とのコミュニティに飢えてるのかもしれない(笑)。でも、そういう場所を作りたいんです。1ヶ月に1回は店主ができるとか、イベントをしたりとか。本を通じて人が集まる場所を、この町に作りたい」

元パティシエ、バイク旅人、そしてエアコンクリーニング。一見バラバラに見える山代さんの経歴は、すべて「丁寧な手仕事」と「人との対話」という一本の線で繋がっています。
「旅人」だった彼が、今度は「迎える側」として町の新しい居場所を作ろうとしている。その挑戦は、人吉という町が持つ懐の深さに、新しい色を添えていくはずです。
エアコンが綺麗になった後の清々しい空気のように、山代さんの夢がこの町に新しい風を吹き込む日。それは、そう遠くない未来のように感じられました。山代さんが作る「新しい居場所」で、今度は私たちが、お茶を飲みながら共に語り合う番かもしれません。









